ホワイトデー

「いつもより甘いカクテルを」
明のいつもより低い声が店内に響いた。
エレガントなジャズがながれている小さなバー。。
たまに明と一緒に飲みにくるこのバーは、
いつも都会の雑踏の中にあるとは思えない程の静寂な空気なのだ。
この静寂の中で、カクテルを飲むあたしたち。
「甘くておいしい」
と明に言ってみる。
明は、
「このバーに来ると性格変わるんだなあ」
と静かに笑った。
いつもはおしゃべりなあたしだけど、ここにくると、口数が少なくなる。

静寂の中、聞こえてくるのは、ジャズとカクテルを作ったり、
お客さんがからからと混ぜている音だ。
アロマキャンドルの香りがしていた。
キャンドルの火が店内の空気を明るくしていた。

無言のまま、明とアイコンタクトをする。
「あいしてるよ、
今年も一緒に過ごせたね、
来年はもっともっとお料理うまくなるからね。
もちろん明のためよ。
あたしの料理味見してね。
でも、おいしくなかったらごめん」
あたしは一人で照れ笑いをしてしまった。
明は隣で笑っている。
あたしには明の声が聞こえたような気がする。
「何笑ってるんだよ。美春。
美春は、ずーっと俺と一緒だよ。愛してる」
眼と眼でなんとなく会話して、
キャンドルの火を見ながら、甘いカクテルをゆっくりと飲む。

現実に横にいる明に話しかけてみる。
「静かだね、
っていうか、今日のキャンドルいつもとちょっと違うよ」
「何だよ。
今日何の日だか分かってるのか?」
と明が言った。
今日は3月14日。
いつもより遅い時間にこのバーに来て、
お互いの仕事の休みを合わせて、
明とお泊りすることになったのだ。
内心緊張していたりもするけど、ハッピーだなあと思った。
ゆっくりとカクテルを飲み終わると、
あたしたちは、都会の雑踏の中にゆっくりと入って行った。

早く二人になりたいなあ。
心の中で呟いた。
ホテルに辿り着いて、
部屋に入ると、外の音は何も聞こえなくなった。
この部屋に入るまでの時間は、5分もしなかっただろう。
でも、30分くらいに感じた。
部屋は、綺麗な照明だけど、どうせ明が消しちゃうんだろうなあ。
そう思いながら、嬉しいのと恥ずかしいのが交錯し、照れ笑いしながら、
明に抱きつくとぎゅっと抱きしめられた。
そして、唇を重ねた。
これから長い夜がまっている。
そして、二人の長い時間が、ずーっと続けばいいのに、とあたしは思った。
あたしがおばあさんになっても、おじいさんになった明と
こうして愛を語れたらといつまでもいつまでも祈っていた。



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