「ああ、これじゃあゴミ屋敷みたいじゃん!
来るなら来るって言ってくれればいいのに!」
独り言を言ってみる。
あたしの声は、半分笑っていて、更に笑えた。
頬が横に広がっているのが止められない。
そのまま口と鼻から、うふ!って感じで息が漏れる。
やだなあ。
この顔。
美奈子が来たら、
どうしよう?
部屋を片付けているとき、あたしのケータイに着信があった。
着歌、美奈子がすきなんだよね。
と思いながら、電話に出る。
「もう駅なの?」
「うん、
でも、寒いだろうから今日は迎えに来なくてもいいよ。
あたしそっちまで行くから。
部屋あったかくしといてー」
遠慮がちで細い声。
間もなく、チャイムの音がした。
ドアを開けると、眼に飛び込んできたのは、
大きな薔薇の花束抱えている、
きゃしゃな女の子だった。
「ユカー!
ちょう会いたかったー。
やっと時間作れたよー」
あたしは、声に似合う体型とドラマティックなかわいい彼女を抱きしめたかった。
でも、なかなかそうはできない。
「あらー。
その緑のアイシャドーどうしたのー?
ラメ入りなんて珍しい」
「え?
かわいくないの、これ?
っていうか、もっと大事な物に気がついてよー」
と美奈子が言う。
かわいい。
「ちょっと、寒い。
入りなさいよー」
あたしは軽く彼女を抱き寄せた。
玄関の鍵を閉めてしまえば、あたしたちの世界だ。
「お茶入れるから」
と言って、あたしは昨日作ったクッキーをテーブルに置いてお茶を入れた。
「その大きな花束どうしたのよー」
といたずらっぽく聞いてみる。
美奈子はソファーに座って、花を抱いている。
「これね、うちのお店で余ったの」
「ふーん、
で、残り物がここに来た訳?」
「違うってばー。
匂い嗅いでみなって」
あたしはお茶を入れてから、
美奈子の隣に座って、花に近づいてみる。
甘いローズの香りだった。
「買えば高いのよー」
あたしは、美奈子の手から花束をとると、大きなテーブルの上に置いた。
花の香りなのか香水の香りなのか分からないけど、
いい香りの美奈子が、あたしにもたれかかってくる。
「なによー」
いたずらっぽく言ってみるけど、頬がさっきみたいになっているのが分かる。
美奈子に唇を奪われてしまった。
「エロティック!」
なあんてふざけて言ってみる。
「笑ってるじゃん」
と美奈子がいう。
顔が赤い。
かわいい。
ぎゅーっと抱きしめたら、細いけど、柔らかい美奈子の肉体を感じた。
「ねえ」
美奈子が囁く。
「なによ」
あたしは、恥ずかしくて、大きな声を出して普通を装った。
「流し台貸してくれない?」
美奈子が花を抱えて流しの方に行ったので、
花でもいじるのかなあと思って、
頷きながらちょうどよさそうなボウルを出してみた。
美奈子が花を挟みで切り始めた。
彼女の細い手がしなやかに動く。
ボウルには、たくさんの薔薇が入っている。
1本の薔薇に大きな花がたくさんついていた。
その大きな花を丁寧に切る美奈子。
それを見ているだけで、あたしは癒された。
高校のときに聞いた彼女の夢。
「お花の先生かお花のお店を経営するかー、うーん。
お花の仕事したいの」
夢を語る彼女は純真でかわいかった。
卒業して、数年。
本当に花屋でバイトをしている。
あのころの彼女の声と、あたしに甘える彼女の声がリンクする。
美奈子の指をずーっと見ていたかった。
大学に入って、そこそこのとこに就職したあたしにとっては、
美奈子は、潤滑剤であり、あたしのOLとしての生活に
エネルギーと華やかさを持ってきてくれる。
めんどうくさい仕事も楽しくできるようになったのは、
彼女がいてくれるからなのだ。
夢を棄てないいつまでも純真な美奈子。
そんな彼女はずーっと抱いていたいペットのように思えたり、
逆に、あたしも彼女に抱かれていたいペットになりたいことがある。
十分な水を与えてもらった綺麗な花にしてもらいたいと思うこともある。
時にかわいくなり、時に、あたしを寂しくさせるいろんな顔を持つ美奈子を
もうきっと友達として見ることはできないだろう。
美奈子の隣に行ってみる。
「この大きな薔薇をいっぱいお風呂に入れてね、
花びらを数えるの。
ユカと二人でね」
「美奈子らしいじゃない?
でも、二人でふやけちゃうよ。
こんなにいっぱいあるんだもん」
「あたしたちがふやけちゃったらー、
お風呂上りにあたしがユカを癒してあげる」
「うわ。
美奈子ってそんなこというキャラだと思わなかったー。
ちょう面白い」
あたしは彼女の赤い頬にかるくキスをした。
こんどはいつ会えるのだろう。
もうそんなことが頭を過ぎった。
お互いに予定が合わないとこうして二人で過ごすことはできない。
急に切なくなってきた。
美奈子の指を見ながら、
薔薇の香りが立ち上るキッチンで、
ちらりとカレンダーを覗き込んだりしていた。
「ユカ、寂しそう」
美奈子がこんどは抱きしめてくれた。
「寂しくないわよ」
「2週間後だけど、次は確定だし、今日過ごせるんだからさあ」
あたしはだまって頷くしかなかった。
3月の夕暮れ。
まだ少し冷え込んでいるけれど、
春が近くなっているのか、この間美奈子とドライブに行ったときよりも
空が明るいなあと思った。
24時間しかない1日も長くなっちゃえばいいのに、と思った。
じーっと彼女の指を見ていると、
「ユカ、お風呂沸かそうよ」
かわいい声が聞こえた。
浴室で、
「美奈子は、オムレツがすきだったんだよね」
なんとなく口にしてみた。
あたしを幸せにしてみたり、泣かせてみたりする、小悪魔な美奈子。
これから過ごす週末が楽しみになってきた。
鏡を見ると、また頬が横に広がっていた。
歯並びの悪いあたしだけど、いー!という表情になると、
我ながら綺麗だなあなんてちょっとナルシストになってみた。
こんなに幸福であることが、やはり怖くもなってきた。
でも、楽しんじゃおう。
そんな風に思いながら、薔薇の香りのするところにもどって行った。
「お風呂もうすぐだよ」
あたしが美奈子に言うと、
薔薇を切る手が止まった。
「あ、全部お風呂に入れちゃうのはもったいないからー、
今あるのを入れるよ」
「美奈子、この薔薇の花すっごい大きいね」
あたしが言うと、
「これね、匂い袋にしようと思って・・・」
かわいいなあ。
ちょうかわいい。
そんな風に思って、彼女のことを見ていた。
とりあえずテーブルに飾ることにした。
「美奈子、プロだよ。
やっぱりあたしとは違うね」
歓心しながらあたしが言うと、
「そうかなあ」
とちょっと照れながら美奈子が言う。
色が綺麗。
美奈子の笑顔とマッチしてる。
あたしはそう思った。
「ねえ、ユカ考えてみたらさあ、
こうやってお泊りするのって久々だよね」
「そうだね、
あたしも会社の人とスキー行ったり、
何だかいろんなところと交友関係繋げちゃったのはいいんだけど、
ちょっとここんとこ送別会やら、出なきゃなんないイベントあったり、
個人的に付き合いなくなっちゃうと困る仲間もあったし、
だけどね・・・」
「いいの。
1日だけのデートでも、ユカと会えるのは嬉しいし、
どんなことがあっても2週間に1回は会ってるじゃない?
それだけで嬉しいよ」
あたしに気を使っているのか、彼女は健気だった。
彼女の足の先から頭までずーっと見ていた。
何気なくだけど。
「美奈子もバイトでシフトあるだろうに、
こっちにばっかり合わせてもらっちゃって・・・」
「いいの。気にしないで」
そう言いながら彼女はあたしを抱きしめてくれた。
「お風呂?」
「うん」
とどちらともなく言うと、
二人で浴室に入った。
本当に薔薇の花びらを散らしたりして、けっこういい色してる。
その浴槽に入って、狭いよ、とかあふれちゃうよなあんて
ごちゃごちゃ言いながらくっついたり離れたり、
笑いの耐えない浴室だった。
美奈子は、ちょう甘えてる。
薔薇が綺麗だから許しちゃおう、なあんちゃって。
本当はあたしも嬉しい。
お風呂から出ると、冷たいお茶を飲んだ。
そのまま二人でくっついているのが、何とも言えず幸せだった。
こういうのって外から見たらへんたいとか思われるのだろうか。
あたしたちは愛し合っているのに・・・。
二人の問題だからいいのだ。
あたしは美奈子がぐったりし始めたので、
普段着ないようなピンクのホームドレスを着た。
「マタニティーみたーい、どこで買ったの?
「マタニティーじゃないよ。
これそこら辺で1000円くらいで売ってるよ」
っていうかー、オムレツ作ってあげないよ」
「あ、ユカちゃんごめんなさーい。
だって、かわいいしー、セクシーっていうかー、何ていうかー・・・」
あたしはそのままエプロンした。
エプロンとテディーベアーのパジャマを持ってきて、
美奈子はいいでしょうっていう眼であたしを見てくる。
二人で料理した。
夕食もおいしかった。
明日のデートであのこと言おうかな。
ふと頭を過ぎった。
美奈子が持ってきた映画がすごくロマンティックだった。
映画のキスシーンを見て熱いキスをした。
夜は、愛し合っているときが何とも言えずうっとりと、
そして、お互いにおとなの女になっていた。
明日はデートだ。
早く寝なくちゃ。
電気を消すとあたしたちは手を繋いで眠った。
朝起きて時計を見ると、
まだ6時半だった。
あたしは、横で眠っている美奈子を見た。
かわいらしい寝顔。
昨日お風呂に入れるための薔薇を切っていたあの手を思わず触ってみる。
温かい。
あんなにたくさん薔薇を持ってきて、
キッチンに飾ったり、お風呂に花を入れて、
花びらを綺麗に散らしながら無邪気な顔をしている彼女はかわいいとしか言えなかった。
こんなことをいうのもへんだけど、彼女を守りたいって気持ちになったりもした。
今日伝えることを伝えよう。
そう決心した。
美奈子を起こさないようにそーっとカーテンの隙間から外を見ると、
昨日よりも明るかった。
今日は晴天。
もしかしたら、昨日よりも薄着ができるかもしれない。
「ンー。
おはよう」
美奈子が起きたみたいだった。
「明るいねー」
眠そうで、ちょっと気だるそうだけど、彼女はこどものようだった。
「眩しい?」
「ドライブに最適だよ。
ユカの運転期待してるよ」
美奈子がゆっくりしゃべる。
ベッドの中でもぞもぞしている。
そして、まだ眠いのかと思いきや、
こんどはいきなりあたしをベッドに引き寄せて、
抱きついてきた。
柔らかくて気持ちいい。
声には出せなかった。
でも、そっとモーニングキスをした。
あたしは平静を装っていたかった。
恥ずかしいのだ。
「美奈子、眠そうだねえ。
まだ寝るの?」
「うーん。
ユカの作ったご飯食べたいなあ」
そう言っている彼女をぎゅーっと潰れる程抱きしめたかった。
でも、てれてしまった。
「じゃああと1時間寝る」
あたしは彼女の隣でまた横になった。
美奈子がくっついてきた。
ちょっとあたしの体が疼いてしまった。
でも、昔付き合っていた男より彼女がいいと思った。
今は彼女が一番いいのだ。
幸せなことなのか、不幸せなことなのか、
あたしは今まで付き合ってきた男性とベッドに入ってゆったりしたことがない。
何だか始まっちゃうと、どんどん進んじゃうみたいな、
あたしが疲れててもあたしが無理して彼に尽くさなきゃいけないことが大半だった。
美奈子は、相性が合う。
ゆっくりとゆったりと進んでいく。
どっちが攻めとかどっちが受みとかあたしたちにはないのだ。
疲れないし。
気を使わないし。
かわいいし。
お互いの悪いところは、もう見えているころだけど、
そういうのも認められるようになってきた。
美奈子が眠っている間、あたしは彼女を見ながらいろいろと考えていた。
「まったく、
あんなに元気だったのに、寝てるときはまじで子犬みたいだよ」
と喉まで出かかったけど、聞こえたらやばいから言わなかった。
あたしは薔薇の花を見ながら朝食を作った。
美奈子を起こそうと思ったらもう起きていた。
「ああ、ごめんねー。
今日も作らせちゃって・・・」
「はいはい。
昨日も作りました。
今日も卵くらいしかなくてさあ。
昨日オムレツだったのにねえ。
あはははは」
「うわー。
スクランブルエッグだ」
そんなことを話しながらあたしはパジャマにエプロン、
美奈子はパジャマで朝食を食べていた。
幸福としか言えない一時だった。
「さてと、
いつまでもこんな服装してらんないや」
美奈子が着替えに行った。
あたしも着替えた。
またお腹周りが太くなっちゃったかなあ。
とか思いながら、ボトムに足を入れた。
「あれー、
その服どこで買ったの?」
「いつものとこだよ」
ガーリーだけど、スポーティーにしないと運転しにくい。
「美奈子もパンツスタイルじゃない?
珍しいね」
「だって今日公園行きたいから・・・」
「まさか公園で遊ぼうとか考えてるんじゃないでしょうねえ」
ちょっといたずらっぽく言ってみる。
「ちょっと遊ぶかも。
でも、分からない」
にこっとした美奈子がかわいい。
あたしたちは車を走らせた。
「今日の東京は本当にいいお天気です。
いやあ、桜もそろそろですねえ。
みなさん週末いかがお過ごしですか?」
FMからはそんな声が聞こえる。
美奈子は、景色を楽しんでいるようだった。
カメラがあったらこの姿を写真に撮りたい程
今日の空と彼女の顔がマッチしていた。
午前中はくだらない話をしながら、ただただ車を走らせていた。
「ソフトクリーム食べたいな」
美奈子が言う。
「じゃあどうする?」
あたしは助手席の美奈子をちらりと見て、微笑みが隠せないまま答える。
「今日はあんまり遠出しないで、
東京の海でも見たいなあ」
美奈子がそんなことを言うもんだから、
高速道路を走って海まで行って浜辺を散歩しながら、
あたしが勇気出して好きだ
ということを伝えたことが思い出される。
あれからどのくらい過ぎただろう。
あたしたちは今日はお台場に行くことにした。
カップルがたくさんいる。
その中で女の子のカップルが手を繋いで歩くなんて、
恥ずかしいなあと思いながら美奈子と初めて行くお台場を楽しみに車を走らせた。
「ここなら売ってるよ」
あたしたちは車を止めて、ソフトクリームを買いに行った。
海の綺麗な公園だった。
「何にするの?」
あたしが聞くと、
「ミックスとストロベリーどっちにしようかなあ」
美奈子はまじになって悩んでいる。
そういうところがかわいい女の子だなあと思う。
「もう、あたしがミックスにするから美奈子はストロベリーにしなよ。
少しあげるから」
と言って、あたしはソフトクリーム二つ買った。
密かに、回しながら食べるのが楽しみだった。
やっぱり思惑どおりだった。
「ねえ、少しちょうだい」
美奈子がわがままっぽく言う。
「しょうがないなあ」
あたしが食べてたソフトクリームを彼女が食べる。
「じゃあ美奈子のも少しちょうだい」
そう言って美奈子からソフトクリームを貰う。
美奈子がこれを食べてたんだと思うと、妙に興奮したり嬉しかったりした。
「もうお昼だよ」
「もうちょっと歩こうよ」
二人で手を繋いで歩いた。
カップルばっかり。
あたしたちもカップル。
周囲の人はどう思ってるんだろう。
ちょっと気になった。
「レディースセットだ」
美奈子が見る方を見ると、
ヘルシー料理のレストランだった。
「ここに決定」
あたしが言う。
二人で豆腐の料理を食べた。
デザートまでついてきた。
さっきソフトクリーム食べたのに。
午後は、二人でショッピングすることになった。
「うーん、ブランド物ばっかり」
美奈子は難しい顔をしている。
「あ、ユカが着てる洋服だ」
「だめだ。
あたしの地元で買った方が安い」
今日は何だかデートらしいデートをしたのかな。
いっぱい写真も撮ったし。
「そろそろ行かないと込むよ」
あたしが言うと、
美奈子が頷いて駐車場まで一緒に手を繋いで行った。
道は大分空いていた。
「ねえユカ、公園、あそこの公園!花が綺麗なの」
美奈子がはしゃいでいる。
「うわー。
綺麗」
思わずあたしもはしゃいでしまった。
美奈子の家に近い。
誰かが見てたらどうしよう。
ちょっとだけ困ったりもした。
桜並木があたしたちを迎えてくれた。
「もうすぐだね、今日あたり人がいっぱいかと思った」
とあたしが言うと、
「夜桜見る人が多いの」
と美奈子がいう。
「ブランコ」
そういうと、
本当に美奈子がブランコに乗りに行った。
「こどもっぽい」
とか何とか言いながら、あたしも乗ってしまった。
明日から始まる会社のことを考えるとそろそろブルーになってくる。
でも、美奈子と一緒にいると、それを忘れることができる。
「ねえ美奈子、
あっちの椅子に座ろうよ。
花が見たいの」
二人で並んでベンチに座った。
桜もいいけど、薔薇もいいし。
彼女の夢がただの夢でないことが分かってきたような、
やっぱり分かってあげたいようなそんな気がした。
今朝決意したこと。
話そうかな。
「どうしたの?
ユカ。
難しい顔しちゃって」
彼女は敏感だ。
「美奈子。
あたし決めた。
ずーっと言おうと思ってたんだけど、
あたしさ会社でまじめに働いてまじめにお金貯めるよ」
「え?」
美奈子はきょとんとしている。
「いつか美奈子が言ってたでしょ?
二人でお花屋さんやろうねって。
約束したでしょ。
あれは確かに本当にやろうと思ってたから約束したんだけど。
あたしまじで決意したから。
いつかじゃなくて、本当にこれからまじめに準備してさ、
二人でお店やろうよ。
それで、あたしさ、やっぱり美奈子と一緒に住みたいよ。
どういう風に両親に話しするかは課題だけど、
いつかとか、
何年後とか、
もうちょっとお金が溜まってからとかって、
やる気あったけど、勇気なくて。
どこか逃げてたっていうか。
ごめんね。
本当に本腰入れて準備するから。
この話し受けてくれないかなあ」
美奈子はびっくりしていた。
「ユカ。
あたし嬉し過ぎて。
何て言っていいんだか・・・。
美奈子の眼から涙が流れた。
彼女の涙を拭う。
そして、そっと抱き寄せて熱くキスをした。
「指輪こんど買いに行こうね。
あたし本当にちゃんと働くし、いろいろ考えるから」
「ありがとう。
ユカと一緒に花屋さんやれて、
一緒に住むこともできたら、本当に嬉しいよ。
あたしは今のバイトを頑張る。
それで、いろんなこと話し合っていこうよ。
ユカは、パソコンできるし、あたしはすごく助かる。
お店出すなんてどのくらい時間がかかるか分からないけど、
本気でこれから準備する気になってくれてあたし嬉しいよ」
あたしたちは、何も言わず抱き合った。
そして、もうすぐ夕方になるし、車の中に入った。
「和食のお店でも行こうか」
あたしは何となく提案してみる。
「そうだね」
あたしたちはおすしを食べた。
幸せだった。
そして、帰るときになって、
「ねえねえ、」
と美奈子が言う。
「このリップパレット持ってるんでしょ?」
あたしのだいすきなブランドだった。
「こっちとこっちの色混ぜると、
昨日お風呂に入れた薔薇の色みたいになるよ」
あたしも同じ物を持っていたので、
紅筆で絵の具を混ぜるみたいな面白さで、
美奈子の言うようにパレットの色を筆につけてみる。
昨日のローズの色が思い出された。
何だか感動してしまった。
その色を唇に塗ってみる。
美奈子も塗っていた。
「あ、遅くなっちゃうね、
そろそろ送って行かないと美奈子のお母さんに怒られちゃう」
「そんなこどもじゃないってばー。
ほら、あたしも塗ってみたよ」
なんとなくニュアンスは違うけど、綺麗なローズピンクだった。
何となく唇を重ねる。
「ああもう。
キスしたら、お互いのリップが崩れるじゃん」
「いいじゃない?
同じの塗ってるんだから」
恥ずかしい。
鏡を見ると、
ローズピンクの唇なんだけど、激しくキスしちゃったのかな。
ちょっと撚れてたり薄くなってたりしていた。
何とも言えず恥ずかしかった。
でも、嬉しくて、嬉しくてしょうがなかった。
このままでいいや。
そう思いながら車を動かそうと思うと、
美奈子は自分の紅筆をあたしに渡してきた。
「会えないときも一緒だよ」
あたしは頷いて自分の使った紅筆を美奈子に渡した。
「会えるじゃない?
いつでもきてよね。
お店のオープンのことで話すこといっぱいあるんだから」
「そうだね。
あたしが行かなかったら、
出せるお店もどんどん遅くなっちゃうしね」
「住まいのことも二人で住むのは、どうするかとか、考えなきゃ」
美奈子の笑顔が愛しかった。
「あたしのマンションは、どっちにしても二人で住むには狭いし。
本当は連れて帰りたいけど、こういうことはきちんとしないとね」
寂しいけど、自分で自分に言い聞かせるようにあたしは言った。
ちゃんと話しして、お遊びじゃなくて、
まじめに二人で同じ道を歩きたいと思ったから。
美奈子を家に送った。
急に寂しくなった。
だけど、この寂しさは、ずーっと続く訳じゃないんだもんね。
今日しっかり話ししたし。
あたしはマンションに帰った。
寂しくなって、紅筆を出してみる。
この筆で付けてたんだ。
そっと色をとって、唇に付けてみる。
美奈子はずーっと一緒。
信じられないけど。
これから忙しくなる。
デートもしたいけど、
バイトが終わってから美奈子がくるときは、
どんなお店にするかとか考えなきゃだし。
一緒に住むんだったら、
これからもずっと一緒に住みたいから、
両親にもうまく話さなきゃだし。
でもなあ、まさか女の子に恋をしちゃったからなんていいにくいし。
どうしようかな。
店を出したい、転職したいってことはあやふやじゃなくて
しっかり伝えないとね。
あたしは決意した。
夜空ももう春って感じだった。
夜が来るのが、遅くなってくる。
何だか嬉しい。
あたしたちの生活はこれからだ。
これから二人でかわいいお花屋さんをやっていこう。
そして、いやな仕事を辞めて、生きがいになる仕事をして、一生過ごそう。
あたしは鏡に向かって頑張ろうねと言ってみた。
あたしもお花のことを勉強しなくっちゃ。
さあ、あたしたちはこれからスタートだ。
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