いろんな意味での良い人

担任の橋本先生は、名前を呼び上げて、一人一人に通知表を渡していく。
途中、由美が名前を呼ばれても気づかない様子で、
美咲が彼女の肩をたたいて教えるというハプニングもあった。

由美は誰に対しても明るくて、クラスの中でも中心的存在。
美咲も明るいことは明るいけれど、なんていったらいいのか由美とは違う。

高校3年生ともなれば、Hしていて当たり前といわれている世の中だけれど、
実際していない18歳だっているんだよ。
僕は声を大にしてそう言いたいね。
そんな僕でも、由美と美咲の女性の違いはわかる。
うまく表現できないのが悲しい。

橋本先生に注意された由美は、先生がジャージではなくおしゃれしているから
気をとられたということを言い訳にしている。
そういう明るさが彼女らしい。
じゃれあう二人の姿は、まるで青春ドラマのようでほほえましい。
僕は彼女が席に戻るまでつい見とれてしまった。

「メガネくん。呼ばれてるよ」
後ろから、美咲に通知表の角で頭を軽くたたかれた。
「名前で呼んでくれって」
美咲に振り向いてそう言ってから、橋本先生のところへ行く。
「もっと上を目指そうと思ってもいいと思うんだけどなぁ」
先生は、僕にいつもそんなことを言う。
期待されていると言うことはないとわかっているけれど、
僕は今の成績で十分満足。
「平均あたりでいいんです。
下手に上の成績になっちゃうと維持が大変ですから」
「平凡もいいけれど、自己主張も大切よ」
「平凡な人生が僕の自己主張です」
とりあえず、厄介なことになる前に通知表をもらい、席に戻った。

「かっこいいなぁ。平凡な人生が自己主張だなんて。
さすが、メガネくん」
「だから、メガネくんって言うなって」
後ろの席の美咲が面白そうにからかってくるけど、別に気にならない。
でも、言われっぱなしもちょっと悔しい。
「その気もない男性に愛想を振りまく美咲の人生より、マシでしょ?」
言い過ぎたのはわかっていた。
でも、いつもの美咲なら冗談として受け止めてくれると思っていた。
「メガネくん、さいてー!!」
通知表の角でポカスカ頭を殴りつけてくる美咲。
僕の言った言葉が、美咲の心に響いたみたいだ。
明るい美咲でも、なにかあったのかもしれない。

さすがに、僕たちの行動はクラスでも目立ち、先生に注意された。
そんな僕たちの席の横を何もなかったかのように歩いて、先生に呼ばれて前に出て行くカツヤ。
やっぱり、雰囲気が違う。
もしかして、大空襲があっても彼なら平然としているのでは?
そんな雰囲気さえある。

そう言えば、カツヤの笑った顔って見たことがない。
2年生になって新しいクラスになり、知り合ったときからずっと笑ってないのか?
いや、1回見たことがあるような気がする。
あれ?どんなときだっけ?
はっきりと思い出せないけれど、確かに笑った顔を見たことをあるんだ。

「ねぇ、美咲。カツヤくんが笑ったとき見たことあるよね?」
「ないよ。…あれ、そう言えば見たことあるような気がする」
やっぱり、僕と同じように思い出せないけれど、美咲も見ているんだ。
多分、由美も見ているはずだから後で聞いてみよう。

HRが終わったからって、いきなり由美のところに行けるわけがない。
これが女性経験のないふがいなさなんだろうなぁ。
由美のことをためらいがちに見ていると、美咲が先に由美のところに行った。
こんなことなら、美咲に聞いておいてくれと頼むんだった。
このことは来年に持ち越しということで、あきらめて帰ることにする。

美咲と由美の横を通り、軽く挨拶をして別れる。
そのときに、彼女たちの会話で、
クリスマスパーティのときの会費のことでヒカルのことが話題になったいるのを知った。
ヒカルが会費を払わないから、もう彼女を呼ぶのをやめようということらしい。

金銭が絡むと、友達付き合いも悪くなっちゃうよね。
聞かないふりをして、帰るのが一番と思ったから、僕はそのまま教室を出た。
実は、ヒカルとは小学生からの付き合い。
義務教育だから小中学校は一緒でも仕方ないと思っていたけれど、
まさか高校まで一緒になるとは思わなかった。
ご近所さんということで、お互いの両親も良く知っている。

これだけは言える。
今まで一回も彼女を女性として意識をしたことはなかった。
幼馴染として異性としてお互いを見ていなかった二人が、
恋に落ちるという展開もあってもありそうだけれど、ヒカルに関しては一切ない。

教室を出たら、いきなり腕をつかまれ中から見えないところに、引っ張られた。
さっきの話題の人物、ヒカルだった。
「ねぇ、浩二。今、美咲たちの横を通ったでしょ。なんか言ってた?」
「なんだ、ヒカルか。聞いちゃったよ。お金にルーズなことはやめなって」
「だって、美咲たちと一緒にパーティしたかったんだもん」
「で、どうするの?いくら?いつ返してくれるの?
でも、そんなに持ってないからね」
僕は、しぶしぶ財布を取り出した。
こづかいをもらったばかりなので、多少なら貸せないこともない。

ヒカルは本当にうれしそうだった。
こういうときのヒカルの笑顔はかわいいんだよなぁ。
そして、はにかんだような表情で、5本の指を広げて見せてくれる。
「大きいのが5枚だったら、殴るよ。どんなパーティなんだよ」
「本当にゴメン。初詣で家族一緒にいくときには返すから」
「また、ヒカルの家族と初詣に行くわけ?」
「ご近所づきあいも大事だよ」
彼女に5千円を渡しているとき、あわてた表情で教室から由美が出て行くもんだから、
僕たちはなぜだか気まずいと思ってさらに体を隠してしまった。
実際、これはやましいことかもしれないけど…。
「本当に浩二に感謝します!初詣のあと、家族でカラオケだからね!」
ヒカルはそう言い残して、教室に残っている美咲に会いに戻っていった。

「いい人って言うのは 都合のいい人という場合もあるんだからね。
そんなことだから、メガネくんは恋人もできないんじゃないの?」
そう言えば、美咲に言われたことがあったっけ。
僕は、別にいい人になろうとは思っていない。
でも、恋人ができなくてHもしていないというのも事実。

財布の残高を確かめると、勝手にため息が出た。
ちゃんとヒカルは返してくれるんだろうなと心配しながらも、財布をしまう。
そこへ、ヒカルが戻ってきた。
「あら、待っててくれたの?」
「財布の中を見ていただけだよ。待っていたわけじゃない」
「本当にゴメン。でも、おかげで助かったよ。ありがとう」
「よかったね。今度からはお金にルーズな性格を直すように」
「平凡な人生のメガネくんからお説教されたぁ」
「ヒカルまで、メガネくんと呼ばなくていいって」

僕たちは終業式を終えたことだし、素直に帰ることにした。
ヒカルと僕はご近所ということで、こうして二人になった場合、一緒に帰ることもある。
こうして異性が一緒に帰っても近所ではうわさが立つことはまったくない。
最初のうちは、クラスメイトからうわさも立つかなと思ったけれど、それすらなかった。
どうして、異性が一緒に帰ってうわさも立たないの?
どうして、一緒に帰っても恋に落ちたりしないの?
こっちが聞きたくなってくる。

「3学期になったら、ひまになっちゃうね。ちゃんと授業あるのかなぁ」
「所詮は、就職ぐみだから、関係ないわよ」
「つらいこと言うなって。お互いに社会勉強が早くできるだけラッキーと思わなくちゃ」
「浩二も大学行きたかったんでしょ?」
「今度、そのこと言ったら、親の前でも殴るからね」
「きゃー。こわい!」
大学進学を僕たちは親の都合であきらめていたので、
親の前ではふざけてでもそんなことは言わない。
言えるのは、こういうときだけだった。

「お互い、いろんな意味で良い人って言われたいよね」
「そういうこと言ってると、ヒカルも彼氏ができなくなるからね。
僕はね、いろんな意味での良い人とは言われたくないよ、もう」
「苦労しているみたいだね。メガネくん。じゃぁね!」
ヒカルは笑顔でバイバイをして、家に戻っていった。

考えてみれば、今のクラスになっていろいろな女性たちと話せるようになった。
恋人がいなくても、それはそれで幸せなのかもしれない。
きっと、これからの恋人探しのためのステップアップということなんだ。
とりあえず、それで僕は納得したいと思うけれど、
やっぱり女性とHはしてみたいんだよなぁ。



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