「ひなちゃん入学おめでとう」
今日はあたしの高校入学の日だった。
入学式には、パパとママ揃って来てくれたし、
学校は校舎も新しくて、
すごい綺麗。
「明日からは一人で電車で行くんだからね」
ああもう、ママに言われなくても分かってるってばー。
次の日から学校が始まって、友達できるか心配だったけど、
ユキ、ツカサ、ミクの3人といっつも4人で動くようになった。
担任の先生は、西川先生という国語の先生で、筋肉もりもりの元気な男の先生。
西川先生って、34歳らしいんだけど、
けっこう若く見えてみんなの人気者なんだよ。
あたしはみんなから、ひなちゃんって呼ばれてる。
だって、名前がひななんだもん。
ちょっと恥ずかしい。
で、お姉ちゃんの名前がかななんだよ。
すんごい単純。
お姉ちゃんは、大学2年生で、帰ってくる時間がまちまちだし、出る時間も違う。
あたしの今の悩みは、ユキとかみたいにスタイルばつぐんになれないことかな。
食べても、食べても、太れない。
みんな羨ましいっていうけど、
全然そんなことない。
たまーに、中学1年生とか、へんな人だと小学校5年か6年とかに
勘違いされちゃう。
美白してるの?
ってみんなに言われるんだけど、
美白なんてやってなくて、
ただ、血色悪くて、顔色がいっつも悪いんだよね。
ママには、貧血にいいものを食べなさいって言われるし、
あたしレバーとか大嫌いなのに。
でもね、学食はおいしいの。
「ひなちゃーん、また髪の毛切てきたのー?」
家に帰ると、ママがいきなり髪の毛のことを言ってきた。
4月には桜が綺麗だった。
あたしが美容院を変えたのは、この4月からなの。
ツカサがすんごいオシャレな美容院紹介してくれて、通ってる訳。
あたしはロングヘアーなんだけど、ブローのやり方とか教えてくれて
なかなかいい美容院なの。
「そうよ。
こんどは5月に行くの」
とあたしが言うと、
「全く、髪を伸ばすならほっとけば伸びるのよー」
とかってママがぼやいてる。
実はね、図書館にいる女の人が髪の毛さらさらでモデルみたいなの。
真似したくて。
あたしは毎日図書館に行くのが日課になってる。
それでね、
すっごく気になっちゃってることがあるんだけど、
27歳かそれくらいの年齢の女性が毎日図書館に来てるの。
すごく美人だし、洋服もモデルさんが着てるような服着てて、
あたしには遠い存在。
でも、綺麗。
その女性に憧れて、真似してみたんだけれど、
子供が大人になりたくて背伸びしているみたい なんてユキに冷やかされちゃうし・・・。
何だか4月はばたばたしてるうちに過ぎていってしまった。
学校の通学は、電車だから、毎日図書館に行ける。
図書館って何だか落着くの。
5月に入って、図書館で、ふと本棚を見てたら、
表紙が女の人のイラストの本があった。
めちゃめちゃ綺麗だったから、思わず手にとっちゃった。
中身を開いてみると、
女の人の裸の絵が描いてあった。
うわ、思わず照れちゃった。
もちろん男性の裸も。
うわ、何だろう?
この本。
ここだけの話だけど、あたしそういう話全然分からなくて、
保健の時間とかにやっても、
みんながくすくす笑ってるのに、あたしはチンプンカンプンなんだよね。
あ、みんなが笑ってる話ってこれかなあ。
XとYがどうたらこうたらで、
もし、同性を好きになっちゃったら、どうたらこうたら、
とかって話が脱線しちゃって、クラスが収集つかなくなっちゃったっけ。
何だかやっぱり恥ずかしい。
あたしはその本をさっさと片付けて、
自分の好きな作家の本を借りて帰ることにした。
受付で、借りる本の手続きをしているとき、
あの女の人が、中で本を読んでいるところを、みつけた。
いつもどこで服買ってるんだろう?
今ちょっと指を見たら、マニキュアが綺麗。
あ、あんまり見ちゃいけない。
あ、彼女も席を立とうとしている。
本借りて出るのかなあ。
話しかけてみようかなあ。
あたしは急いで、彼女を追いかけた。
だめだ、やっぱ勇気がない。
あたしはそのまま家に帰った。
ああ、何でだろう?
ユキとかにはさくさく話かけられて、友達にもなれたのに。
でもね、おとなだもんね。
相手はすごいお姉さんだし。
歩きながらふと道路を見ると、街路樹の緑が綺麗だった。
家に帰ると、夕食の準備を手伝って、今日はハンバーグを食べた。
「ママー、こんなに食べられないよ。食欲ない」
ってあたしが言うと、
「だめ、体力なくなって点滴になったらどうすんの?」と言われ、
お腹いっぱいなのに無理やり食べる感じになっちゃった。
あたしはお風呂に入りながら考えた。
それにしても、あの女の人は何で毎日夕方の5時くらいに図書館にいるんだろう?
ああ、何でだろう?
次の日朝起きて学校に行く前に、イチゴの香りのするリップクリームを
付けながらパッケージに書いてある、
「桜のような唇」
というのを見て、
何だか笑っちゃった。
ちょっとだけ色が出るんだけど、唇っていろいろ遊んでみると
セクシーに見えたりするってそういえばユキが言ってたっけ。
グロスとか、ユキに聞いてみようかなあ。
学校に到着すると、あたしはユキの席に行ってこっそり聞いてみた。
「ねえねえ、リップグロスってセクシーになれるの?」
「ひなちゃんどうしちゃったの?」
ユキがちょうびっくりしていた。
「あたしもグロスの1本くらい欲しいなあと思って、ただそれだけよ」
「あ、分かった。
ひなちゃん好きな人できたんでしょう?」
「え?!」
あたしは、苦笑しちゃった。
「分かったよ。
付き合ってやるよ」
ミクもツカサも帰りは一緒だから、みんなでドラッグストアーに行った。
「うわー、ピンキリだねー」
「これがいいよ。
安いし、ほんのりピンクだし、つやつやになるよ」
ユキが教えてくれた。
「あ、バニラの香りだって。すごーい」
あたしは感動しちゃった。
買って、開けて早速塗ってみた。
あ、何だか付け心地いいなあ。
それにこの顔色の血色の悪い感じも隠せるし。
「ユキ、ありがと」
「教えなさいよー、
ひなちゃん、好きな人のこと」
「そんな人いないってばー。
ユキ、ありがとね、じゃあまた明日」
あたしは今日も図書館に行った。
彼女は今日も来ていた。
何だか彼女が本を読んでいる姿を見ているだけで、
ほっと心が温かくなる。
これって何だろう?
胸もどきどきしちゃう。
もしかして、これってあたしの初恋?
あたしの初恋相手が同姓の女性?
図書館を出ると、あたしはおもいきって彼女に話しかけてみることにした。
「こんにちは。
いつも図書館で会いますよね。
あ、ごめんなさい、自己紹介もしないで、
あたしひなっていうんです」
いきなり話しかけられて、ちょっとびっくりしていたみたい。
あたしだって、こんな度胸があったことにびっくり。
彼女は、あたしに微笑んでくれた。
「あなたも毎日図書館に来ているわよね」
あたしのこと、気づいてくれていたんだ。
それだけでもすごく嬉しい。
「ひなちゃん、話しかけてくれてありがとう」
わー。いきなりひなちゃんて呼ばれちゃった。
それだけのことなのに、あたしったら、ちょー緊張。
「あのー、そのネイル綺麗ですね」
「え?そう?」
彼女はたいしたことなさそうに、指を広げて爪を見つめる。
「すごく綺麗です。あたしもそういうネイルしてみたいです」
「今度、ひなちゃんにやってあげてもいいわよ」
「え?本当ですか?」
彼女と二人。
ネイルなんてやってもらったら、あたしどれだけ緊張しちゃうんだろう。
「ごめんね。今日、あたし時間がないから。
また明日会えたらいいわね」
彼女はさっきまで読んでいた本を本棚にしまい、図書館を出て行った。
その姿も大人びているようでつい見とれてしまった。
そして、彼女の姿が見えなくなってからあたしはあることに気がついた。
彼女の名前を聞いていない!
でも、彼女のあたしの名前を覚えてもらっただけでもうれしい。
その日の夜、夢で彼女が出てきた。
教室の中で、一緒にパフェを食べているの。
「はい、あーんして」
とかあたしに食べさせてくれたりしてくれる。
まるで昔から付き合っているみたいに、二人はとても仲良し。
起きてから、その楽しかった夢を忘れないようにつとめた。
夢って、誰かに話したら実現しない。
そんなことを前に聞いたことがあるので、ユキとかにも話したかったけれど、
話さないことにした。
でも、その夢のことを思い出すと、にやけてしまうらしく、
ユキとかツカサに冷やかされてしまう。
「グロスに興味を持ったり、ひなちゃん、本当に恋に目覚めちゃったのかなぁ」
「ちがうよー。」
「うぶな顔しても、ひなちゃんも恋しちゃうんだね」
「そんなんじゃないって」
ひやかされながらも、この気持ちは恋かもと考えたりしてみた。
うーん・・・。
素敵な女性に憧れている気持ちが、あたしを危ない方向に持っていこうとしているとか?
「もう、ひなちゃんったら。なんで急に考え込んじゃうのよ」
「恋するということだけでも、大人の仲間入りなんだから、いいことだよ」
考え込んでいるうちにあたしは、しゃべることをやめてしまったらしい。
そんなあたしにツカサやミクが励ましてくれる。
「どうしようもなくなったら、言ってね」
「いざとなったら、あたしたちが愛のキューピットになってあげるからさ」
励ましているんだか、からかっているんだかわからないけれど、
そう言ってくれる友達がいることだけでも嬉しい。
「ありがとう。いざとなったら、お願いするとこにするよ」
もちろん、帰りは図書館によっていく。
昨日借りた本があるけれど、図書館に行くのは楽しいし、
なによりも憧れの女性に合いたいという気持ちもいっぱいあるから。
憧れの女性はもう来ていて、中で本を読んでいた。
あたしは彼女の隣に腰掛け、あいさつした。
彼女もあたしに挨拶をしてくれる。笑顔もとても素敵。
「あのー、よかったら、パフェでも食べに行きませんか?」
ちょっと、あたし、大胆すぎない?
どうして、こんなこと言えちゃうんだろ。
夢のことがよっぽどあたしを大胆にさせてくれているのかな?
「え?あたし、ひなちゃんに誘われているの?」
「ごめんなさい。迷惑ですよね。いきなりごめんなさい」
「謝らなくていいわよ。
ちょっとぐらいなら、いいわ」
「本当ですか?!」
図書館の中ということも忘れて、うれしさのあまり大声になるところだった。
図書館の帰りにカフェに寄ったりするけれど、いつも一人。
初めて、そのお店に入ったときは、中学生と間違えられて、
保護者の方は? なんて聞かれたりもした。
今では、それなりに顔なじみになっているので、サービスしてくれたりもする。
「ここのパフェって、あたし、好きなんです」
「ひなちゃんって、パフェがすごく似合うかわいい女の子だよね」
「ほめ言葉と思っていいです?」
「もちろんよ。ひなちゃん、かわいいんだもん」
憧れの女性から面と向かって、そう言われると照れてしまう。
あたしたちは、当たりさわりのないお話をした。
本の話やら、お化粧の話。
でも、お互いの私生活の話はしなかった。
あたしは自分のことを話してもよかったんだけれど、
彼女がそういう話をしたがらないみたいな感じがしたから。
「ごめんなさい。そろそろ帰らなくちゃいけないから」
「あ、ごめんなさい。大切な時間をあたしなんかが邪魔しちゃって」
「そんなことないわ。ひなちゃんと一緒で楽しかったもの」
彼女が携帯電話を取り出し、操作しはじめた。
「ひなちゃんは携帯持ってる?」
「持ってます」
あたしも携帯電話を取り出した。
もしかして、番号とメールアドレスをあたしに教えてくれるの?
ちょっと、期待しながら待っていた。
「電話にはいつも出れないかもしれないし、
メールもすぐに返事ができなくてもいい?」
「はい!」
彼女の番号や、メールアドレスがわかるだけでも、あたしはすごくうれしい。
そして、彼女の名前もようやくわかった。
舞花さん
すごく素敵な名前だと思うけれど、彼女は自分の名前が大嫌いらしい。
大嫌いな名前だけれど、あたしになら名前で呼んでくれてもいいと言ってくれた。
それって、あたしが特別だから?
そんなうぬぼれはすぐに消したけれど、
あたしだけが彼女のことを舞花さんと呼べるなんて、
ちょっぴり幸せなのかも。
携帯電話をしまった舞花さんが、おもむろにあたしの手を握ってきた。
あたしどきどきしちゃった。
「いつになるかわからないけれど、ネイルもしてあげるからね」
「はい!お願いします!」
舞花さんの指って、ちょっぴり冷たい感じがしたけれど、
あたし、すごく暖かくて幸せな気持ちになった。
このままこの幸せが続けばいいのになあって思っちゃった。
「最近、リップつけるようになったみたいね」
舞花さんは、そんなことまで気づいていたんだ。
てっきり、気がついていないと思っていたから、また幸せな気持ちに。
「バニラの香りがするリップは誰が選んだの?」
え?あたしにぜんぜん合わないってこと?
やだなぁ。背伸びしすぎちゃったかな?
ユキやミクはあたしに合っているとは言ってくれていたんだけれど・・・。
不安を感じながらも、あたしは正直に答えた。
「あたしが選んだんです・・・」
「ひなちゃんって、センスいいのね」
お化粧が上手でファッションセンスもいい舞花さんにそんな言葉をいってもらえるなんて、
もうびっくり。
今日はとてもいい日になりそう。
舞花さんと別れてから、あたしは家までの道をゆっくり歩いて行った。
だって、今日味わった幸せの余韻に浸っていたかったから。
あたし、舞花さんのことが好き。
でも、恋愛感情のある好きじゃないと思っていた。
女性としてあたしの憧れのきもちのある好きという気持ち。
今日、カフェで話をしてから、舞花さんへの気持ちが変わっちゃったのかな?
それって同性愛ってことになっちゃうでしょ。
やっぱり、女が女を好きになるなんておかしいよね。
だけど、この幸せ感は、お友達と一緒のときとも違う、
ママと一緒にいるときとも違う、
そんな気がした。
この気持ちのことを誰にも言えないし、誰にも相談できない。
これから、あたしは舞花さんとどういう風に付き合っていけばいいの?
その日から、舞花さんと図書館で合えなくなってしまった。
メールをしても、返事が返ってこない。
思い切って電話もしてみたけれど、出てくれない。
何回もメールや電話をするのは失礼かもしれないと思って、
それ以上はあたしにできなかった。
これ以上、一人で悩んでいたらどうにかなっちゃうと思って、
ユキに相談することにした。
親に相談できるわけないし、お姉ちゃんなんかなおさら相談できない。
「ひなちゃん、すごいなぁ」
それがユキの一言目。
すごいと言われることはしていないつもりだけれど、やはり案の上の言葉。
「でも、人を好きになるっていいことだと思うよ」
「相手が女性でも?」
「うん。あたしだったら、告白しちゃう。
結果がどうなったとしても、自分の気持ちに素直になりたいもん。
自分が素直にならないと、自分がかわいそうでしょ?
そんなエゴとかじゃなくて、自分の気持ちを大切にしてあげたほうがいいと思うけど。
舞花さんと一緒にいて幸せだったなら、そういうことじゃないの?」
ユキってまじめに、あたしの相談に乗ってくれる。
そして、あたしは決めた。
思い切って舞花さんに告白しよう。
そりゃ、告白しなかったら、今のまま幸せな気持ちで舞花さんといられるかもしれない。
でも、それじゃあたしの本当の気持ちはうやむやのまま。
舞花さんに嫌われても仕方がないけれど、本当のあたしの気持ちを知ってほしい。
そう決意することにした。
でも、その日も図書館で舞花さんとは会えなかった。
もしかして、舞花さんはあたしの気持ちを知って、図書館に来なくなったのかもしれない。
ちょっぴり、ブルーになりながらも、受付に本を返却して帰ろうとした。
「もしかして、中目黒ひなさんは祐天寺舞花さんという方をご存知ですか?」
受付であたしの貸し出しカードの名前を見た男性がそう言ってきた。
祐天寺舞花さんって舞花さんのことかな?
「知ってますけれど、なにか?」
「手紙が図書館宛に来ていたんです。あなたの住所がわからないからって」
男性はそう言って、机の中から手紙を持ってきた。
図書館宛の手紙の中に、あたし宛の手紙が入っている。
苗字がわかりませんが、毎日図書館に来るひなちゃんに同封の手紙を渡してください。
という内容が書かれた便箋が中に添えられていた。
あたしは、なんだか悪い予感がしながらも手紙を受け取る。
メールとかしてくれればいいのに。
あたしは、早く手紙が読みたくて、いつものカフェに立ち寄った。
手紙の内容をウェイターさんに読まれたくなかったので、
注文したパフェが届いてから、手紙を開封することにした。
かわいいひなちゃんへ。
電話やメールをいつもありがとう。
ひなちゃんから、連絡があるとすごく嬉しいです。
でも、電話に出なくてごめんなさい。
メールにも返事をしなくてごめんなさい。
あたし、人と接するということが、だめなんです。
家族とさえ、接することがだめなんです。
だから、ひなちゃんとあんなに話せたことが不思議でした。
正直言って、違和感なくあんなに話せたことは何年ぶりのことでしょうか。
ひなちゃんになら、あたしのことをわかってもらえるかも。
何度もそう思いました。
だけど、かわいいひなちゃんにあたしなんかが接しちゃいけないんです。
ひなちゃんは純真でとてもかわいくて、とても良い子です。
そんな女の子に、あたしなんかが関わって、
ひなちゃんを悪い方向へ持って行くことは許されることではありません。
あたしなんかがこの世の中にいてはいけない。
そのことは前から痛感していました。
何度も今まで自殺をして未遂で終わっていましたが、
今回は確実にこの世から消えようと思いました。
あたしなんかに、関わってくれたありがとう。
もし、生まれ変わりがあるなら、今度はもっと早くひなちゃんと会いたいです。
ひなちゃんとお話できたことは、あたしにとってとても幸せでした。
本当はこの幸せをもっと感じていたいと思いましたが、
そんなことをしたらひなちゃんの負担になってしまいます。
ごめんなさい。
でも、ありがとう。
この幸せな気持ちのまま、最後を迎えるということは最高の思い出になります。
バニラのリップはひなちゃんにお似合いです。
そんなおしゃれをするかわいいひなちゃんと出会えたことが
あたしの人生の中で最高の出来事でした。
舞花
追伸
読んだ後は、この手紙を処分してください。
え?なに?
これってなに?
うそでしょ?
手紙を読んで、あたしが舞花さんを追い詰めちゃった気持ちになってしまった。
あたしはカフェのマスターに10日分の新聞を読ませてもらうことにした。
そんなことはないと思うけれど、舞花さんのことが3面記事で出ているかもしれないから。
しかし、3日前の朝刊に舞花さんの記事を見つけてしまった。
カウンセリング通院中の舞花さんは、休職中で、
会社に毎日連絡することになっていたらしいけれど、
2日間連絡が来なくておかしいと思った会社の人が様子を見に行って、
彼女が死んでいたのを発見したらしい。
遺書などなにもなく、病気による発作的なものと断定されちゃっている。
あたし、どうしたらいいの?
この手紙を誰かに見せたほうがいい?
でも、処分してくださいと書いてあるから、
舞花さんはこの手紙の存在を知られたくないかもしれない。
もう、舞花さんとは一生会えないんだ・・・。
ネイルをしてくれると約束したじゃない。
こんなつらいことって、ないよ。
思い出なんかで終わらせないで、
これから楽しいこといっぱいあったかもしれないのに。
あたしは涙が止まらなかった。
もっと、早く自分の気持ちに素直になればよかった。
これから、あたしは舞花さんのことを思い出として生きていかなくちゃいけないなんて。
生きていれば何とかなったじゃない。
あたし、わからない。
これからどうしていいのかわからない。
あたしは、舞花さんと会えないということが悲しくて
力いっぱい泣くことしかできなかった。
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